| 年金運用に関する調査・研究/クォンツ・レポート | |
年金研究センター 研究員 矢野 学 | |
第15回:リバランシング(1) | |
年金基金などの投資家は通常、それぞれの運用目的に応じて中長期的な期待リターンやリスク・相関係数などのパラメータをもとに、ある一定の資産配分比率をポリシー・アセット・アロケーション (PAA: Policy Asset Allocation) として設定し、この比率を中心にして運用を行っています。同時に実際にはより短期的な見通しを反映させる目的から、当該年度の資産配分比率をPAAから乖離させる戦略的アセット・アロケーション (SAA: Strategic Asset Allocation) を採用するケースも多いようです。 | |
| 運用を開始した当初にはこれらの比率で各資産に投資したとしても、資金の流出入の影響やそれぞれの資産の時価が変動することなどから、時間の経過とともに徐々にこれらの比率から乖離していくことになります。時間の経過によらず各資産に対する相場見通しに変化がないものとすれば、本来は当初に決めた比率に戻す (リバランスする) 必要がでてきます。しかし現実には各資産を売買しなければなりませんので、あまりに頻繁にリバランスを行う場合には多大なコストが必要になってきます。一方で、PAA (もしくはSAA) と比べてあまりにも大きな乖離を放置するような場合には、当初決められた配分に対して大きなリスクをとってしまうことになりますので、目標とする運用成果が得られなくなる可能性もでてきます。このようなリバランスの問題に対して、実務上はPAAに対して上下数パーセント程度の乖離許容幅を設定して、そのレンジを超えないようにリバランスすることを運営ルールとしていることが多いようです。しかしながらこれらのリバランス・ルールはアドホックに決められることが多く、理論的・実証的な根拠に乏しいとの指摘が数多くなされていました。クォンツ・レポートでは3回にわたって、このリバランスの問題について考えてみることにしましょう。1回目では特に「リバランス戦略」について考えて行きます。 | |
| リバランス戦略の形態としてどのようなものがあるでしょうか。ポートフォリオ理論では、期待リターンやリスク・相関係数とリスク許容度のパラメータが等しければ選択されるポートフォリオは一定ですので、まずひとつには常に当初の配分比率を維持するというコンスタント・ミックス戦略 (CM: Constant Mix Strategy) が考えられます。また、運用によって資産額が当初よりも増えればリスク資産割合を高め、逆に資産額が減少してくるとリスク資産割合を低くするような投資行動をとる投資家は、富の水準(資産額の増減)に応じてリスク許容度を変更していることになります。そのような場合には、PAAより求められるVaRなどの当初ポートフォリオ価値に対するリスク量を一定とするようなポートフォリオ・インシュアランス戦略 (PI: Portfolio Insurance Strategy) が考えられることになります。ベンチマークとしてリバランスを全く行わないバイ・アンド・ホールド戦略 (B&H: Buy and Hold Strategy) を考えた場合、これらの戦略のペイオフは概念的に図1のように描くことができます。 | |
![]() |
| この図から、以下のことがわかります。 @ B&H戦略では、リスク資産の価値が上昇 (下落) すればポートフォリオの全体価値も上昇 (下落) するため、リスク資産価値とポートフォリオ価値は線形の関係となります。 A CM戦略では、リスク資産価値が上昇 (下落) すればその分リスク資産を売却 (購入) して当初比率を維持しようとするために、継続的にリスク資産価格が上昇 (下落) するような局面 (正の系列相関が存在するような局面) ではドリフト戦略に比べてパフォーマンスが劣後することになりますが、逆に方向性のないような局面 (負の系列相関が存在するような局面) では優位となります。(逆張り戦略的なリバランス) B PI戦略では、Aとは逆に、リスク資産価値が上昇 (下落) すればその分だけリスク許容度が大きくなってリスク資産を購入 (売却) するために、継続的にリスク資産価格が上昇 (下落) するような局面ではB&H戦略に比べてパフォーマンスは良くなりますが、方向性のないような局面では劣後することになります。(順張り戦略的なリバランス) |
| このように、「その後の相場がボックス相場になりそうだ (すなわち負の系列相関となりそうだ)」と予測する場合にはCM戦略、「その後の相場がトレンドを持ちそうだ (正の系列相関がでてきそうだ)」と予測する場合にはPI戦略が良いことになって、どのようなリバランス戦略が最適なのかは、その後の相場がどのように推移するのかに依存してくることになります。したがって、どのような相場状況に対しても「事前に」最適なリバランス戦略は存在しないということがわかります。 |
| 短期的な相場変動を捉えて、順張り戦略と逆張り戦略を機動的に変更するような運用手法は、タクティカル・アセット・アロケーション (TAA: Tactical Asset Allocation) 戦略の根本的な発想とも共通した考え方になっています。しかし、TAAでは期中の期待リターン・リスク・相関係数というパラメータを積極的に予測してポートフォリオを変更するのに対して、リバランス戦略ではそれらのパラメータを予測しているというわけではありません。それらに変更がなくても、系列相関に対する予測を持ち、富の水準に応じてリスク許容度を変更する投資家であれば、リバランス戦略におけるアクティブな戦略も選択可能ということになります。 |
| では、それぞれの戦略を採用した場合にどのようなリターンの違いが生じるのでしょうか。次回では、これらの戦略の間でどの程度のリターン格差が生じてくるのか、シミュレーションを用いて検証してみることにします。 |
|
|年金研究センターTOP|クォンツ・レポートTOP| |