年金研究センター

年金運用に関する調査・研究/クォンツ・レポート

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研究員 矢野 学

第17回:リバランシング(3)

 前回は、今後の相場動向 (資産の系列相関) についての予測を持つ場合や、運用の結果である資産額の水準に応じてリスク許容度を変更する場合についてのリバランス戦略を考えました。シミュレーションによって、正の系列相関がある場合にはリスク許容度を変更していくポートフォリオ・インシュアランス戦略(PI: Portfolio Insurance)、負の系列相関がある場合には当初の配分に戻すコンスタント・ミックス(CM: Constant Mix)戦略が有利になることを示しました。
 リスク許容度を全く変更しない場合や系列相関の予測をもたない場合には、政策アセットミックス(PAA: Policy Asset Allocation)を維持するようなCM戦略が最適な戦略となりますので、今回はそのリバランスのルールとして、@リバランスの頻度 (どのようなタイミングで行うか) 、Aリバランスの幅 (どれだけ行うか) をどのようにして決めればよいのかという問題や、実際の運営上の様々な問題点について、最近の研究動向を交えて考えていくことにしましょう。
 現在のところ、リバランス・ルールを決定する方法として、取引コストとの関係から投資家の効用を最大にするような「乖離許容幅」を設け、その上下限を超えてウェイトが変化した場合に限って、(PAAではなく)その上下限までウェイトを戻す、というルールが理論的整合性を持った手法として支持されています。
 PAAは、投資家のリスク許容度をもとに効用を最大化する最適な資産配分割合として選択されます。期初にはこの比率で運用が開始され、さらに期中でも期待リターンやリスク・相関係数といったパラメータを変更しないことに加えて、資産額の水準の増減に関わらずリスク許容度を変更しない場合であっても、時間の経過と共に各資産のウェイトが変化してくれば投資家の効用を最大化する資産配分割合から乖離してきますので、PAAにリバランスした方が投資家の効用は高くなるはずです。しかしながら、取引コストを考慮する場合には、リバランスをすることによって期待リターンが低下してしまうことになります。取引コストによる期待リターンの低下を小さくするためには、おのずとリバランスの頻度や大きさ(幅)を小さくする必要が出てきます。投資家の効用における、このような期待リターンと取引コストの相殺効果によって、投資家のリスク許容度に応じた最適なリバランス戦略が導出できることになります。「乖離許容幅」は投資家のリスク許容度と共に取引コストの大きさに依存してきますが、乖離許容幅以内のPAAからの乖離は取引コストとの兼ね合いから乖離をそのまま放置する方が効用を高められます。また乖離許容幅を超えた場合のリバランスは、コストを抑制するために許容幅の上下限まで実施するのが最も良いことになります。こうしたリバランス戦略については、浅野[1998]や山下[2000]、鶴渕[2000]などによって詳細に研究されています。
 しかしこれらの手法を3資産以上の多資産へ拡張しようとする場合には、どの資産を売却してどの資産を購入するのか、という各資産の相対的な関係が問題になります。加えて多期間への拡張や期中のキャッシュフローの影響も考慮しようとすると、解析的な結論を導くのは非常に困難になってしまいます。また、乖離許容幅は取引コストの大きさに依存しますので、実際に取引コストを決定する場合には、売買手数料などの固定的なコストはともかく、マーケットインパクトなどの変動的なコストの把握は容易ではありません。これらの手法を実際に利用する際には、前提となる条件を良く理解してその限界を認識しておくことが大切です。
 以上までは、PAAとして設定した各資産ごとの配分比に対するウェイトコントロールについて考えてきました。しかしリバランスの問題としては資産間の配分のみに留まらず、同一資産内でのスタイル配分や個別銘柄のウェイト調整なども問題となってきます。これらのリバランスを考える場合も、これまでの議論と同様に、各スタイルや各銘柄の期待リターン・リスク・相関係数を変更せず、また投資家が資産額の水準に応じてリスク許容度を変更しないものとすれば、当初の配分に戻すCM戦略や、取引コストとの対比で乖離許容幅を設定するような方法の適用が考えられます。しかし現実には、期中の短期的な変動を事後的に観測すれば、前提となる将来の期待リターンやリスク・相関、リスク許容度には変化がでてくることはあるでしょう。特にスタイルや個別銘柄の将来のパラメータに関して、個別企業の収益見込みの変更などが行われることなどは頻繁にありますので、期待リターンやリスクに変更がないといったことの方がむしろまれであると考えられます。これらのパラメータに変更があれば、その都度そのパラメータに基づいてウェイトをリバランスすることで投資家の効用を高められますが、現実には取引コストが発生します。したがって、売買コストを勘案した上で効用を最大にする最良執行の手法が研究されており、現在ではスポンサーが運用マネージャーを評価するひとつのポイントともなっています。売買の執行方法は、パッシブ/アクティブによる違いや、バリュー/グロースなどの運用スタイルによっても大きな違いがあります。ですから、単にコストを最小にするということのみに着目するよりも、それぞれの運用手法に応じた付加価値の付け方をよく加味した上で評価する必要があるでしょう。
 最後に、リバランスの運営面について考えてみることにしましょう。スポンサーは実際には自ら運用を行うことはほとんどありませんので、多くは運用マネージャーに運用を委ねることになります。そうした場合、今まで議論してきたように各資産ごとに随時リバランスを行うという方法は、都度発生するキャッシュフローでの調整に加えて、運用機関間での資金移動が必要になってくることもありますので、現実には実行が困難なケースが多いと考えられます。また大半のスポンサーは同時に複数の運用マネージャーに委託するのが実態ですが、複数資産に投資するバランス型マネージャーを多数採用するような場合では、例えば片方のマネージャーが株式ウェイトを高くする一方で、もう片方が株式ウェイトを低くするといったように、それぞれのマネージャーのウェイト変更が互いに相殺しあって、結果としてコストのみを負担させられるということも起こり得ることになります。さらに、マネージャーに支払う運用報酬は大半が受託残高に比例するような報酬体系ですが、実際には報酬率は残高が多ければ逓減していくような料率となっていることことから、あまりにも多くの運用マネージャーに資産を分散しすぎるとかえって運用報酬負担が大きくなるようなケースもでてくると考えられます。以上のような理由から、最近ではバランス型マネージャーを1社に集中して、そのマネージャーにリバランス機能を期待するようなリバランス・マネージャーの採用が注目を集めています。リバランス・マネージャーを採用するメリットとしては、@複数マネージャーの相殺行動による非効率の回避、A残高をまとめることによる報酬負担の削減、Bスポンサーにおけるリバランス事務運営負担の削減、などがあげられます。リバランスは、運用政策を実現するための具体的な運営手段ですから、その方法はもちろん政策と整合的でかつ効率的なものでなければなりません。リバランス・マネージャーを採用するにしても、どのようなリバランス・ルールにするかはスポンサーの政策に応じてそれぞれ異なっているはずですので、意思決定の主体はあくまでもスポンサーにあるということになります。しかしそのルールは具体的にはどのように策定すれば良いでしょうか。
 効率的なリバランス運営を実現するためには、運用の結果に与える影響の大きさが判断要素となります。そのためリバランスを考えるにあたっても、単にウェイト・コントロールの問題として捉えるのではなく、「リスク」概念の導入は不可欠と考えられます。リバランス・マネージャーを採用する場合のリバランス・ルール策定に際しては、「どこまでをリバランスの対象にするか(何をリスクと考えるか、どのレベルまでのリスク管理をリバランスマネージャーに期待するか)」がポイントになるでしょう。具体的には、例えば、
  • 対象とする(カバーする)資産
     (ex. 「資産全体」、「国内株式と国内債券のみ」、など)
  • ベンチマーク(ex. PAAかSAAか、ベンチマークのリバランス頻度など)
  • 資産内のリバランス
     (ex. バリュー/グロースなどのスタイル・リバランス、補完ファンドなど)

  • などが考えられます。資産ウェイトがPAAから乖離することのみをリスクと捉え、その是正をリバランスマネージャーに期待するという基本的なリバランス・ルールもあるでしょうし、資産全体の(マーケット・リスクとアクティブ・リスクをあわせた)トータル・リスクをリバランスしていくようなリスク・リバランスのルールも考えられます。ただしアクティブ・リスクを含める場合には、その定義についてスポンサーとマネージャーの間に予め共通した認識が必要になってきます。
     例えば、国内株式のスタイル・バイアスのリバランスを委託するような場合、スポンサーはスタイルの定義をしなければならなくなります。アクティブ・リスクを完全に取り除くにはリバランス・ファンドを含めた国内株式全体をベンチマークに合致させるような補完的なリバランス・ポートフォリオが必要になりますが、仮にそのようにするのであれば、そもそもすべてをインデックス・ファンドに委託しておけばよいのですからアクティブ・ファンドを採用する意味はなく、むしろ高いアクティブ報酬を支払う分だけ無駄な投資となってしまいます。アクティブ・マネージャーに期待するものを生かしながらも、全体として回避したいリスク(例えば、サイズやPBRでみたベンチマークからの偏りなど)がスタイル・バイアスですから、予めこれらを明確に定義しておかなければなりません。逆にいうと、アクティブ・マネージャーに期待するものが何なのかを明確にしておく必要があることになります。一方スポンサーにとって、マネージャーには効率的なリバランスを期待するわけですから、マネージャーを評価する上ではリバランス・ルールに基づいたベンチマークに対して、いかに低コストでリバランスが実現できるかがポイントになります。
     こうした「リスク」に着目したリバランスの考え方は、前提となる定義を明確にしておかなければなりませんが、その過程でスポンサーのポリシーが厳格化されてくると共に、マネージャーとの意思疎通も促進されることが期待できます。またこうしたルール策定の基礎ともなる実証的な調査・研究が継続的に行われることも重要といえるのではないでしょうか。

    [参考文献]
  • 浅野幸弘[1998]「基本アロケーションのリバランス」年金情報 199号
  • 鶴渕広美[2000]「多資産リバランスプロヒビジョンバンド設定の意義と課題」 『リバランスの研究(上)』 年金資産運用研究センター
  • 山下隆[2000]「政策アセットミックスへのリバランスについて」証券アナリストジャーナル5月号


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