年金研究センター

年金運用に関する調査・研究/クォンツ・レポート

総合運用部 クォンツグループ
調査役 袖山 則宏

第19回:リスク管理と測定

@リスク・バジェッティング
 近年、リスク・バジェッティングの考え方が注目されている。しかしながら、厚生年金基金連合会のリスク管理研究会第二次報告書でも「リスク・バジェッティングの意義は限定的。ただし、アクティブ・リスク込みのトータルリスクには注目が必要」との評価にとどまるなど、リスク・バジェッティングそのものの考え方は必ずしも年金基金に定着してきているわけではない。
 そもそも、リスク・バジェッティングは、年金基金などの投資家と、実際に運用を担当する運用機関が異なることによる意思決定のギャップを解消する一つの手段として、資産配分ではなくリスク配分に着目した考え方であると整理できる。しかしながら、実はリスクを配分するとの考え方は、運用担当者側にとっても非常に有効な考え方である。なぜならば、例えば、どの程度のリスク水準を実践上の目標とするか、各資産、或いは各カテゴリーに如何にリスクをアロケートするかといった、リスク・アロケーション(リスク・バジェッティング)の考え方への応用、及びそのためのリスク分析への応用が期待できるからである。
 本稿では、運用担当者の立場から、リスク水準をどのようにコントロールし、また、そのためにリスクをどのように測定・管理することが考えられるか整理してみたい。
A動的なリスク管理
 リスクのアロケート手法に関しては、堀江(2001)の考え方が参考になろう。彼はリスク・バジェッティングという概念を理解する上で「収益を加味した動的なリスク量の配分と管理」、「個別ポートフォリオではなく運用資産全体としてのトータルリスクの視点」、「トータルリターン向上の視点」の三つをキーワードとし、その上で、収益状況を考慮した動的なVaR(1)によるダイナミックなリスクコントロール手法を提案している。しかしながら、このような手法は、年金基金が株式などのアクティブ・マネージャーを評価する尺度として利用するには、その評価期間設定と許容損失を明示することが難しく(2)、寧ろ、リターン状況に応じてリスク水準を調整するDAA(Dynamic Asset Allocation)的な運営を行う運用担当者のリスク管理手法として有効な手段となる。
Bリスク管理の目的
 VaRを用いた動的リスク管理運営を行うのであれば、その役割付けを明確にする必要があり、この点については矢野(2002)が参考となる。彼はリスク管理の目的は、a.中長期的なパフォーマンス向上のための効率的なリスク配分(パフォーマンスの向上)、もしくは、b.短期的な変動に対する過度の損失回避(ロスカット)、に大別できるとしている。そして、後者については、株式などのリスクの高い資産を組入れた運用を行う場合、事後的に当初想定していた分布から離れた大きなリスク(損失)が発生し、それが短期的に(年金財政上や企業会計上など制約に対して)耐えられない、もしくは長期的に想定していたリスク以上になると予想される時には当然「ロスカット」すべきであると整理している。つまり、短期における動的VaRを用いたリスク管理では、ロスカットとしての役割も重要視されることになるのである。
C新たなリスク評価尺度
 このような、ロスカットを意識した運営を嗜好するのであれば、例えば、満期日でのショートフォール確率、VaRといったある一時点を評価基準とするのではなく、現時点から満期日までの投資期間通期でのショートフォール確率、VaRを用いた管理を導入することも一案であろう。これには、Kritzman and Rich(2002)の考え方が参考となるが、彼らは「投資期間中のロス確率(Horizon probability of loss)」、「連続VaR(Continuous Value at Risk)」といった概念を用いて運用期間通期でのリスクを把握し、一時点でのロス確率や、VaRは過小評価されていることを示している。
図表1は、現状パフォーマンス:+0.30%、期待リターン:+0.10%、推定TE:0.20%、投資期間:1年とした場合の、各ロスカット・ラインごとの「満期日でのショートフォール確率」(A基準)と「満期日までのショートフォール確率」(B基準)を算出したもの。

図表1 ロスカット・ラインを割込む確率

 実際に、動的なVaRを用いてリスク管理する場合、投資期間中、想定以上に損失を被ることが往々にして起こる。このことは、“投資評価を特定の一時点(ここでは1年後)で把握する”ことの弊害とも言え、それゆえ“投資評価を特定の一時点までに起こり得るリスク”を管理する一つのバロメータとして「投資期間のロス確率(Horizon probability of loss)」、「連続VaR(Continuous Value at Risk)」をモニタリングすることが考えられるのである。
Dパフォーマンスの拡大のために
 運用担当者は、通期におけるパフォーマンスの最大化を目標に、状況に応じてリスク・コントロールを行うことがある(当然、アクティブ・ファンドであれば運用報酬に見合うリスクを基本的に消化することが目標となる)。それには、現状パフォーマンス、客観的に見た運用マネージャーの今後の期待IR(運用スキル)評価といった付加的な情報についても考慮する必要があり、α判断に対して十分に推定されたダウンサイドリスクをコントロールすること(3)がより実践的な対応であると考えられる。
(1) (リターン−VaR)×投資金額
(2) マネージャーストラクチャー構築時に、中期的にスキルがあると判断したマネージャーでも、短期的に大きな損失を被る可能性はある。このようなことが実現した場合の対応をどのようにするかは、難しい判断である。
(3) パラメトリックな分析に加えストレステストなどのノンパラメトリックな分析を付加することも必要であろう。

[参考文献]
  • Kritzman and Rich [2002], "The Mismeasurement of Risk," Financial Analysts Journal, May/June 2002
  • 厚生年金基金連合会 [2002]、「リスク管理研究会第二次報告書」
  • 堀江貞之 [2001] 、「リスク・バジェッティングの現状とその意義」 証券アナリストジャーナル2001年4月号
  • 矢野学 [2002]、「リスク管理に関する諸問題の考察」 住信年金ジャーナル:年金研究センターシリーズ 第2号(2002.5)



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