調査レポート

[経済の動き]

−今後の欧州経済と通貨ユーロの行方−

1.ファンダメンタルズから乖離するユーロ

ユーロ安が止まらない。9月末の日米欧通貨当局の協調介入から、現在は小康状態にあるが、先行きユーロ安に対する不安は拭い切れない。
水準を判断するメルクマールとして、購買力平価と長期金利差から説明するドル/ユーロ為替関数を推計した(図1)。貿易不均衡の少ない欧米間の為替レートは、円/ドルレートに比してこれまでは実質金利格差による説明力が高かった。事実、実質金利差を組み込んだ為替関数は98年前半頃までは、実績値をうまく説明している。
しかし、98年後半からは推計値と実績値が乖離し始める。ユーロ誕生直前から新通貨誕生当初までは新通貨への期待から割高となり、99年1月の月中平均レートでみて5%の割高となった。現在のユーロ安が通貨誕生当初の過剰期待の反動だという説もあるが、5%の割高では、この説を正当化するには力不足であろう。
その後、コソボ紛争のあった99年3月を機に、ユーロは推計値から大きく下方乖離し始めた。2000年7月時点で乖離幅は20%程度となり、実質金利差というファンダメンタルズからの説明は困難になっている。
金利差が効かなくなった理由としては、繰り返し指摘される欧州から米国への資金流出が第一のものであろう。国際的なM&Aブームの中、欧州企業は米国企業の生産性の高さを評価し、欧米間の金利格差に反映される収益率の差以上のものを期待して米国投資を進めている。

図1.ドル/ユーロ相場と推計値
図1
(注)ユーロと米国の相対物価(ユーロPPI/ドルPPIの対数値)とユーロと米国実質金利差(10年国債利回り-CPI前年比)を説明変数とする推計値。推計期間は構造変化前の94年1月・98年9月。99年10月以降は外挿による。当部推計値。
(資料)ECB"Monthly Bulletin"



2.ユーロ安で赤字となる経常収支

貿易面からもユーロ安が拡大している可能性がある。ユーロ圏の貿易構造は、為替レートが一旦均衡点から乖離すると累積的に均衡点から外れていく危険性をはらんでいる。
一般にユーロ安は、輸出を促進し、輸入を抑制することで経常黒字を蓄積させ、ユーロ安に歯止めをかけると期待される。しかし、ユーロ圏は輸入価格弾性値が低く、ユーロ安から輸入価格が上昇しても輸入数量が減少しにくい構造となっている(表1)。つまり、ユーロ安や石油価格高騰で輸入価格が上昇しても輸入数量が減らないので、ユーロ安になると名目の輸入金額が増加して経常収支が悪化することになる。
実際にユーロ圏の経常収支の動きをみるとユーロ安が続く中でも経常黒字が減少し続け、2000年以降は経常赤字に転じている(図2)。
資本流出→ユーロ安→経常収支悪化→さらなるユーロ安という悪循環から不均衡が累積的に拡大している。貿易黒字拡大の中で円高が進んだ90年代前半の日本と逆の状況である。

表1.ユーロ圏の輸出入弾性値
表1
(注)推計期間96年1月〜2000年1月。当部推計値。(資料)ECB"Monthly Bulletin"、IMF"IFS"

図2.ユーロ圏の経常収支の推移

図2

(資料)図1と同じ

3.均衡回復へのシナリオ

現在の欧州経済は、国内経済の均衡点と国際収支バランスの均衡点が大きく乖離した状況にある。不均衡が是正されるには、・通貨回復か、・景気減速−の二つの経路しかない。
前者は、欧米金利差と資本移動の関係が修復され、欧州からの一方的な資金流出がとまることが条件となる。きっかけとしては、米国の減速か欧州域内改革が進展することである。この場合は、国際収支均衡点が国内均衡点に近づく形となり、ユーロが欧州景気に見合う水準にまで回復、景気減速も最小限となる。
後者の景気減速は、通貨安から輸入物価が上昇するコストプッシュ型のインフレによって引き起こされる。景気減速と物価上昇が同時に進行して、名目金利も急上昇する形になる。国内景気が通貨の水準に見合うまで悪化するという破局シナリオとなる。
今後、欧州経済がこの両極端のシナリオのどのあたりに向かうかは断定できないが、均衡点回帰の力が残っているとすれば、ユーロ回復と景気減速の組合せとなる可能性が高いと考えられる。

(多良 tara@sumitomotrust.co.jp)




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