調査レポート

[産業界の動き]放送

デジタル化に向かう地上波テレビ業界

1. 放送のデジタル化

 日本のデジタル放送は96年6月のCS放送で幕開けし、BS放送も2000年12月からデジタル放送を開始する。BSデジタル放送の参入企業8社のうち、NHKなどの3社は有料放送を、民放関東キー局の関係会社5社が広告収入による無料放送を予定している。
 一方、地上波のデジタル化は、キー局と近畿・中部の準キー局が2003年末に、その他の地方局は2006年末に夫々開始する予定である。
  放送のデジタル化は周波数の利用効率を飛躍的に高め、画質・音質が格段に向上する。雑音の影響も受けにくく、送信電力も少なくすむとともに、伝送・複製・経年による劣化が少ない。さらにデジタル化された通信機器・家電製品などとの接続も容易となり、将来的にはホームショッピングや在宅学習などの双方向型マルチメディア・サービスも可能となる。

2.BSデジタル放送の影


 BS放送は地上波放送と比べ伝送コストが10%弱であり、将来的には地上波を凌ぐ放送メディアとなる可能性を秘めている。 2005年頃にはケーブルテレビのデジタル化とともにBSデジタル番組の視聴者層が拡大、デジタルテレビの販売価格低下が予想される2010年以降には、企業広告は地上波からBSにシフトしていく可能性がある。
 しかし、デジタル放送開始当初はデジタルテレビが30万円前後、アナログテレビに接続しデジタル番組の視聴が可能となるセットトップボックスというアダプターも8万円前後と価格設定が比較的高いと予想され、デジタルテレビの潜在購入者層とみられるハイヴィジョンテレビの年間出荷台数も現状15万台程度であることから、BSデジタル放送の普及には相当な時間がかかるとみられる。
 視聴者数が一定レベルにまで達しない間は、 BSデジタル事業の広告収入は多くを見込めないので、番組制作費の投入額次第では累積債務が1社当たり最大1,000億円近くに達する懸念がある。視聴者数が一定レベルに達しても、チャンネル数が増加し、スポンサーの放送局選別が今以上に厳しくなる中で、民放のBSデジタル事業は2005年頃から期間黒字化し累損解消に向かう企業と、赤字低迷が続く企業に2局化する可能性がある。

3.地方局再編の実現性


 日本民間放送連盟加盟の地上波テレビ放送125社の98年度業績は、売上高が2兆2,548億円、経常利益が1,812億円である。キー局の経常利益は5社合計で994億円のため、キー局と地方局の収益力には相当な開きがある。
 地上波のデジタル化に向けた設備投資金額は、NHK・民放計で1兆円弱とみられ、民放1社平均では約45億円である。ただし、各社の投資額は、放送エリア内の視聴者数とは関係なく、放送エリアの広さや山谷の多さなど地理的条件のみで決まり、例えば北海道では1社平均約100億円必要といわれる。
 アナログ放送からデジタル放送に切り替わったとしても視聴者の一日当りの視聴時間が増加する訳ではないので、デジタル化投資は広告収入の増加には直接結び付かない。むしろ減価償却費や借入金利が増加し、さらに2010年のアナログ放送終了までの間は、視聴者保護のためにアナログ放送とデジタル放送とで全く同じ内容の同時放送を行なうことになるため、伝送コストも増加する。98年7月の民放連研究所「デジタル時代の民放経営」の試算では、キー局の売上高経常利益率は97/3期8.6%から2011/3期には3.1%まで低下し、多くの地方局が2011/3期に経常赤字に転落するとしている。
 郵政省は言論の一方向への偏重防止を目的に、放送局の複数支配を禁止するなどの放送行政を行なってきた。放送局の置局方針についてみれば、各都道府県の人口や経済力の強弱よりも、地域毎の情報格差の是正を目的にしてきた傾向が強い。地上波のテレビ広告市場が今後BS放送やインターネットなどの他のメディアに分散化していく中で、広告市場の規模に比べ放送局の数が多くなってしまう都道府県も少なくないとみられる。
 キー局は系列地方局を再編・統合できれば、ネットワーク当りのデジタル化投資額を縮小できる。郵政省の規制緩和が前提となり、地方局の利害調整にも時間を要するとみられるが、地方局のデジタル化投資の開始時期と関係会社のBS事業の累損が拡大するであろう2005年前後に、キー局主導で系列地方局の再編が発生する可能性がある。

(木村)




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